「社会の分断」と聞けば、犯人はSNSだと多くの人が答えます。ところが米国のデータで分極化が最も進んでいたのは、ネットを最も使わない世代でした。犯人の顔が見えないまま、分断だけが進んでいます。

犯人は本当にSNSなのか

社会の分断について、多くの人はすでに答えを持っています。犯人はSNSだ、と。似た意見ばかりが流れてくるタイムラインの中で、人々が少しずつ過激になっていく——納得しやすい筋書きです。

ところが2017年、経済学者のボクセル、ゲンツコウ、シャピロが米国のデータで示したのは、この筋書きと相性の悪い事実でした。政治的分極化の進みが最も大きかったのは、インターネットやSNSを最も使わない65歳以上の世代だったのです。

これでSNSが無罪と決まったわけではありません。ただ、「ネットのせい」という一言では説明がつかないことは、はっきりしました。では、社会を分断させているものの正体は何なのでしょうか。この問いには現在、複数の学問が異なる答えを出し合っています。

環境か、本性か、構造か

第一の立場は、情報環境に原因を見ます。 法学者のキャス・サンスティーンは2000年代初めから、似た意見の人だけで議論すると集団は議論の前より極端な結論に向かう、という「集団分極化の法則」を根拠に、ネット上のエコーチェンバー——似た意見だけが反響する空間——が民主主義を蝕むと警告してきました。人はもともと心地よい情報を選んで接触する傾向があり、アルゴリズムはその傾向を増幅します。環境の変化が分断を加速させたのなら、処方箋は、異なる意見に自然に出会える環境を設計し直すことになります。

第二の立場は、人間の集団心理そのものに原因を見ます。 政治学者のシャント・アイエンガーらは2012年の論文で、米国の分極化の中心は政策をめぐる意見の対立ではなく、相手党への感情的な嫌悪——感情的分極化——だと論じました。争点への態度の差以上に、「あちら側の人々」への好感度が下がり続けている。だとすれば分断の本体は意見の距離ではなく、「われわれ」と「彼ら」を分けたがる部族的な心理であり、メディアはそれを増幅する装置にすぎない、ということになります。

第三の立場は、誰の悪意も前提にしません。 社会学では、友人関係から結婚、職場まで、あらゆる人間関係が「似た者同士」で結ばれやすいことが知られています(ホモフィリーと呼ばれます)。経済学者トマス・シェリングが1971年に示した有名なモデルでは、「隣人の一定割合は自分と同類でいてほしい」という程度の穏やかな好みしか持たない住民たちが引っ越しを繰り返すだけで、街はほぼ完全に住み分けられてしまいます。誰一人、完全な分離を望んでいないのにです。この見方では、分断は誰かが仕組んだ結果ではなく、無数の穏当な選択から自然に立ち上がってしまう構造的な現象です。

コイントス並みの分け方で生まれる「われわれ」、逆効果に終わった処方箋

社会心理学者アンリ・タジフェルらが1971年に行った実験は、第二の立場の原点にあります。英国の少年たちに2人の画家——クレーとカンディンスキー——の絵を見せ、どちらが好みかで2つのグループに分けたと告げます。実際の割り振りはランダムで、グループには歴史も利害もなく、同じグループの仲間が誰なのかすら互いに知りません。それでも少年たちは、報酬を分配させると一貫して「自分と同じグループ」の匿名の相手を優遇しました。絵の好みという、ほとんど無意味なラベルひとつで、ひいきの芽が生えたのです。分断の種は、私たちが思うよりずっと浅いところに埋まっているようです。

では、エコーチェンバーを壊せば分断は治るのでしょうか。2018年、社会学者クリストファー・ベイルらの研究チームは、この処方箋を実地に試しました。ツイッター(現X)を日常的に使う民主党支持者と共和党支持者に、報酬と引き換えに、反対陣営の政治家や論客の投稿をリツイートするボットを1か月間フォローしてもらったのです。結果は期待を裏切りました。リベラルなボットをフォローした共和党支持者は、むしろ統計的に有意に保守化しました。民主党支持者はわずかにリベラル寄りになりましたが、有意な変化ではありませんでした。反対意見との接触は、対話としてではなく、自分の陣営への攻撃として経験されたのかもしれません。「異なる意見に触れさせればよい」という直感的な解決策は、少なくとも単純な形では機能しない——この実験は、分断研究の風景を変えました。

いま分かっていること、まだ分からないこと

分かってきたことは三つあります。分断の中心には意見の対立だけでなく感情の対立があること。集団へのひいきと敵意は驚くほど小さなきっかけで発生すること。そして「ネットが分断を作った」という単独犯説はデータの支持が弱いこと。日本でも、約10万人の調査データに基づいて「ネットは社会を分断していない」と論じる実証研究があります。

分かっていないのは、心理・構造・環境という三つの水準がどう組み合わさったとき、どの社会で分断が燃え上がるのかという肝心の部分です。感情的分極化の進み方は国によって大きく異なると報告されていますが、その差を説明し切る理論はまだありません。処方箋も未確立です。SNSの設計変更にどれほどの効果があるのか、どんな条件なら異なる集団の接触が敵意を減らすのか——有望な手がかりはあっても、社会全体の規模で効くと確かめられた方法はまだないのです。分断は解けていない問題であると同時に、複数の学問が正面からぶつかり合う、社会科学のいちばん熱い実験場でもあります。